中国経済の異変は、不動産不況や外資撤退だけでは語れなくなっている。いま最も深刻なのは、若者の働き口が消えていることだ。
中国政府が発表する若者失業率は、都市部の16〜24歳で16%台とされている。2026年3月には16〜24歳の失業率が16.9%となり、前月の16.1%から悪化した。25〜29歳でも7.7%まで上昇している。
引用:China’s youth jobless rate rises to 16.9% in March:Reuters
だが、この数字だけを見て「中国の若者失業は16%程度」と受け取るのは危うい。中国の若者失業率は、2023年6月に21.3%まで上昇した後、突然公表が停止された。その後、統計は再開されたが、新しい統計では学生が除外されるようになった。つまり、中国の若者失業率は「改善した」のではなく、「見え方を変えた」可能性がある。
さらに一部の海外分析では、農村部では若者失業率が40%に達していた可能性があり、パートタイムや不完全就業まで含めれば、50%近い水準になるとの見方も示されている。
引用:Youth unemployment in China: New metric, same mess:Atlantic Council
公式発表は16%台。しかし、実態ベースでは4〜5割。この差が、中国経済の本当の怖さである。もちろん、4〜5割という数字は中国政府の公式統計ではない。だが、そもそも統計公表が一度止まり、算定方法も変わっている以上、公式数字だけを信じる方が危うい。
1週間だけ働けば「就職」になるのか
問題は失業率だけではない。中国では、大学や地方が就職率を高く見せるため、形式的な雇用や偽装された就職証明を使う問題も指摘されている。たとえば、卒業後に短期インターンとして数日から数週間だけ受け入れ、それを「就職」として扱う。あるいは、実態としては安定した就職ではないにもかかわらず、短期契約や単発労働を「働いている」側に回す。こうすれば、統計上の失業者は減る。しかし、それは本当に就職なのか。
Sixth Toneは、中国の学生が大学から偽の雇用契約や就職証明への署名を求められていると報じている。中には、本人の知らないうちに労働契約が登録されていたという証言もある。ここで起きているのは、単なる統計ミスではない。就職率を守りたい大学、雇用実績を悪く見せたくない地方、社会不安を見せたくない政府。それぞれの都合が重なった結果、若者の失業が数字の外へ押し出されている。
フードデリバリーは「雇用」なのか
さらに、中国ではフードデリバリーが若者雇用の受け皿になっている。表向きには「働いている」。だが実態は、安定した雇用というより、失業者を一時的に吸収する場所に近い。中国では外卖骑手、つまりフードデリバリー配達員が1000万人を超えていると報じられている。美団の配達員は745万人に達し、饿了么のアクティブ配達員も400万人を超える。
累計稼働3ヶ月未満の配達員が半数近く、年間260日以上働く配達員は11%にすぎない。これは長期雇用というより、仕事に困った人が一時的に流れ込む「雇用の避難所」に近い。
現場の数字を見ると、さらに厳しい。ある配達員は、2023年には1日45件ほど配達し月8500元を得ていたが、2024年には1日30〜35件に減り、1件あたりの単価も8元から7元へ下がった。さらに、単発で仕事を取る「众包」型では、1件4元、円換算で約95円程度まで下がるケースもある。注文は秒単位で奪い合う。だが、運ぶ側の報酬は1件100円前後から百数十円。しかも、配達員が増えれば、1人あたりの注文は減る。
引用:Chinese yuan rmb to Japanese yen Exchange Rate History:Wise
寝そべる若者、怒る国家
こうした状況で広がったのが、「躺平」、つまり「寝そべり」という考え方だった。必死に働いても家は買えない。結婚も遠い。昇進も見えない。なら、もう競争しない。頑張らないことで、自分を守る。これが寝そべり世代の感覚だ。
引用:Chinese spy agency warns nation’s young people against dropping out:Financial Times
中国の国家安全当局は、若者に広がる「寝そべり」的な考え方について、海外の反中勢力が若者の労働意欲を削いでいるという文脈で警戒を強めている。つまり、若者が働く意味を失い始めていることを、中国政府は「経済問題」ではなく「思想問題」として扱い始めている。
引用:China Says Hostile Foreign Forces Are Driving Its Youth to Slack Off:Wall Street Journal
しかし、若者から見れば話は逆だろう。働きたくないのではない。働いても報われないから、働く意味が見えなくなっている。これを「怠け」と見るのか。それとも「社会への静かな抗議」と見るのか。ここに、中国経済の深い病巣がある。
企業も中国から距離を取り始めた
若者の雇用が苦しくなる背景には、企業の中国離れもある。かつて中国は「世界の工場」として成長した。だが今、企業は中国を成長市場としてだけではなく、地政学リスクとして見るようになっている。
中国向けの外国直接投資は、2025年に7477億元。前年比9.5%減少した。
引用:Foreign direct investment in China slides 9.5% in 2025:Reuters
国際収支ベースで見ると、さらに厳しい。中国への純FDI流入は、2021年の3440億ドルから、2024年には186億ドルまで落ち込んだという分析もある。
引用:China Still An Attractive FDI Destination:AMRO
企業が離れれば、若者の働き口は減る。働き口が減れば、若者は寝そべる。若者が寝そべれば、消費は伸びない。消費が伸びなければ、企業はさらに投資を控える。中国経済はいま、この悪循環に入りつつある。
統計から消えても、街には残る
中国政府は、統計の定義を変えられる。学生を除外することもできる。短期インターンを就職に見せることもできる。だが、若者の諦めまでは簡単に隠せない。街に配達員が増える。高学歴の若者が低賃金の仕事に流れる。そして、若者が「寝そべる」と言い始める。
Reutersは、中国の若者失業が「爛尾娃」、つまり未完成マンションになぞらえた”行き場のない若者層”を生んでいると報じている。高学歴でも希望する仕事に就けず、低賃金労働を受け入れるか、実家に戻って親の年金や貯蓄に頼る若者も出ている。
引用:China’s rising youth unemployment breeds new working class: ‘Rotten-tail kids’:Reuters
中国はかつて、世界に安い労働力を売った。しかし今、中国の若者自身が、その労働に未来を見出せなくなっている。これは単なる失業問題ではない。中国という成長モデルそのものが、若者の沈黙によって限界を告げ始めているのかもしれない。
