「給料は上がったのに生活は楽にならない」そんな声を耳にする機会が増えている。
財務省によると、税金と社会保険料を合わせた国民負担率は2025年度で46.1%。財政赤字を含めた潜在的国民負担率は49.1%となっており、国民所得のほぼ半分が公的負担として吸収されている計算だ。
かつて日本では「五公五民」という言葉があった。収穫の半分を年貢として納め、残り半分で生活する状態を指す。現在の日本は農民の時代ではない。しかし数字だけを見れば、国民負担率はすでに五公五民に近い水準へ到達している。
この問題を考える上で興味深いのが、2024年のノーベル経済学賞である。受賞したダロン・アセモグル氏らは、国家の繁栄を決めるのは「制度」であると指摘した。
人々が努力し、その成果を受け取れる制度は成長する。一方で、努力と報酬の結びつきが弱くなれば、人々は挑戦をやめ、国家は停滞する。この研究は世界各国を対象にしたものだが、恐ろしいほど日本の現状に重なる部分がある。
昭和の日本人はなぜ働けたのか
1970年度の国民負担率は24.3%だった。現在の半分程度である。高度経済成長期からバブル期にかけて、日本人は猛烈に働いた。しかし、それでも人々は働いた。理由は単純だ。働けば生活が良くなったからである。
給料が上がれば車が買えた。家が買えた。家族旅行にも行けた。努力と豊かさが直結していた。国民負担率が2割ということは、100万円稼げば手取りは80万円になるということだ。
長年、人材・転職業界に携わるA氏はこう話す。「昔は残業も多かったですが、働けば働いただけ自分の収入になりました。昇進も昇給も今より実感がありました。だから皆頑張れたんです。」
現代の手取りはこうして消えている
一方で令和はどうだろうか。給与明細からは所得税・住民税・社会保険料が差し引かれ、さらに消費税や自動車税・固定資産税・相続税など、人生のあらゆる場面で負担が発生する。高額所得者の場合、所得税と住民税などを合わせた最高税率部分は55%を超える。
本当に手取りを削っているのは社会保険料を含めた総負担であり、その負担が増え続けていることが問題だ。
なぜ働きたくない人が増えたのか
近年では「出世したくない」「管理職になりたくない」「残業したくない」「週休3日がいい」といった声も珍しくなくなった。一部では若者の価値観の変化と説明される。しかし、それだけだろうか。
A氏はこう指摘する。「最近は責任が増えることを嫌がる人が増えました。でも話を聞くと、責任が嫌というより、頑張っても手取りが思ったほど増えないと感じている人が多いんです。現場ではむしろ中高年世代からも『頑張っても報われない』という声が強く聞かれるようになっている。」
昇給しても社会保険料が増える。残業しても税金が増える。物価も上がる。すると人は考える。「そこまで頑張る意味があるのだろうか」と。
アセモグル氏らが示したのもまさにこの部分だ。人は努力が報われると信じられるから挑戦する。努力しても成果が得られないと感じた瞬間、挑戦をやめる。それは個人の問題ではなく、制度の問題なのである。
インフレは「見えない増税」である
国民民主党の玉木雄一郎代表は、インフレによって実質的な増税効果が生まれていると指摘している。
例えば100万円の商品に10%の消費税がかかれば税額は10万円。しかし同じ商品がインフレで120万円になれば、税率が変わらなくても税額は12万円になる。税率を上げなくても税収は増える。
経済学ではこうした現象を「ブラケットクリープ」と呼ぶ。物価上昇に課税基準が追いつかないことで実質的な税負担が増える現象だ。近年「ステルス増税」という言葉が使われる背景には、こうした構造がある。
問題は日本政治の敗北である
国民は高齢化社会の現実を理解している。医療も年金も必要だ。社会保障費が増えることもわかっている。だから一定の負担は受け入れている。それでも不満が消えない。なぜなら、負担だけが増え、豊かさを実感できないからだ。
本当に失われているのは手取りだけではない。未来への期待である。頑張れば報われる。努力すれば生活が良くなる。かつてはそう信じられていた。しかし今、多くの現役世代が見ている現実は違う。
毎月の年金保険料は上がり続ける一方で、将来受け取れる額は実質的に目減りしていくと説明される。自分の両親が70歳を過ぎても働き続けている姿を見れば、不安はより現実的になる。そんな姿を見て育った世代が「自分たちの老後は本当に大丈夫なのか」と考えるのは自然なことだろう。
ノーベル経済学賞が示したのは、国家を支えるのは税金ではなく、人々の挑戦であるという事実だ。そして挑戦は、報われるという希望があって初めて生まれる。
もしその希望が失われ始めているのだとしたら。日本政治の敗北である。
📝 編集長メモ
ノーベル経済学賞の研究が示した「政治制度と経済格差の相関」は、日本にも直接当てはまる。手取りが増えない理由は政策の失敗だけでなく、変化を求めない有権者行動にもある。民主主義は最終的に、有権者の質を反映したシステムだ。
💰 編集長の儲け話
私なら手取りを増やす最速の手段として副業と節税に全力を注ぐ賭けをする。iDeCoとNISAで課税所得を減らし、副業収入を青色申告で経費化する。政治に期待するより自分の税率を下げる方が確実だ。手取りを増やすのは政府ではなく、自分自身の知識と行動力だ。
※本コーナーは編集長個人の見解です。投資等の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。
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