―香害という見えない健康被害の一部始終
「蕁麻疹が治らない。」
病院へ行っても原因がわからない。汗疹と言われる。乾燥肌と言われる。ストレスと言われる。薬を塗っても改善しない。むしろ悪化する。
そんな”原因不明の蕁麻疹”に悩まされる人が、近年増えている。そして今、その原因の1つとして注目されているのが――「柔軟剤」だ。
「まさか柔軟剤で…」最初は疑わなかった
ある当事者は、最初まったく気づかなかったという。洗濯した服を着ると痒い。汗をかくと赤くなる。シャワーを浴びると、腕に発疹が浮き出る。しかし普通、柔軟剤を疑う人は少ない。
当初は汗疹だと思い、市販の汗疹クリームを塗った。
だが、症状はさらに悪化した。
食べ物を疑う。
ストレスを疑う。
寝不足を疑う。
それでも原因はわからない。
不安は別の方向へ―HIV検査まで行った
ネットで症状を検索するたびに、不安な病名が並ぶ。皮膚疾患、自己免疫疾患、性感染症、HIV(エイズ)。「もしそうだたらどうしよう」そこまで考えるようになり、当事者は最終的に郵送型のHIV検査キットまで取り寄せて検査を行った。
結果は陰性。だが、それでも蕁麻疹は消えない。さらに恐怖だったのは、“アレルギー薬が効かなかった”ことだった。一般的に蕁麻疹では抗ヒスタミン薬が第一選択として使われる。しかし劇的な改善は感じられなかった。「アレルギーですらないのではないか」――そんな不安が、さらに恐怖を強めていった。
「すすぎ洗いしてもダメだった」―最後は服を全部捨てた
そんな中、ふとあることを思い出した。「そういえば、柔軟剤の量を間違えた日から悪化している…」ワイシャツだけを洗濯したため水量が少なかったが、柔軟剤はいつも通りの量を入れていた。つまり、“柔軟剤の濃度が高かった日だけ症状が出ていた”可能性があったのだ。
そこで柔軟剤をやめ、服を何度もすすぎ洗いした。しかし、それでも痒みは収まらなかった。最終的に、着ていた服やタオルをすべて処分した。新しい服に変えて生活を始めると――少しずつ、蕁麻疹が消えていった。
「本当に柔軟剤でここまでなるのか…」と半信半疑だったが、服を総入れ替えしたことで症状は実際に改善した。
今、「香害」という言葉が存在する
これは単なる”気のせい”では片付けられなくなっている。現在、自治体や行政機関では、柔軟剤・芳香剤・洗剤・消臭剤などによる体調不良について注意喚起が行われている。この問題は「香害(こうがい)」と呼ばれている。
消費者庁は2023年、「その香り困っている人もいます」というポスターを公表。このポスターは消費者庁・文部科学省・厚生労働省・経済産業省・環境省の5省庁連名で作成されている。実際、自治体サイトでも頭痛・吐き気・めまい・倦怠感・咳・皮膚症状などの相談が寄せられていることが報告されている。
つまり、“一部の敏感な人だけの話”ではなく、社会問題として扱われ始めているのだ。
なぜ最近の柔軟剤で問題が増えたのか
昔の柔軟剤は、洗濯後に少し香る程度だった。しかし現在の柔軟剤は違う。24時間香る、動くたび香る、部屋干しでも香る、長時間残る――こうした”強い残香性”が重視されるようになった。
その背景にあるのが、「マイクロカプセル技術」だと言われている。香料を小さなカプセルに閉じ込め、服が擦れるたびに少しずつ香りを放出する仕組みだ。服を着ている間ずっと香料が出続ける状態になる。その結果、肌への刺激・長時間接触・空気中への拡散が起きやすくなったという指摘が増えている。
「原因不明」のまま悪化するケースも
厄介なのは、柔軟剤が原因だと気づきにくいことだ。蕁麻疹が出ると多くの人はまず汗疹・アトピー・乾燥・ストレスを疑い、市販薬やクリームを塗る。しかし香料入りクリームを塗ることでさらに悪化するケースがある。
つまり、“原因が香料なのに、さらに香料を追加してしまう”ケースがあるのだ。その結果、炎症悪化→掻いて広がる→治らない、という状態に陥る。
「まさか柔軟剤で…」で救われる人がいる
もちろん、全ての蕁麻疹の原因が柔軟剤とは限らない。食物アレルギーや病気が原因のケースもある。ただ、「何をしても治らない」「原因不明と言われた」「洗濯後に悪化する」――そんな場合は、一度“香料”を疑ってみる価値はある。
実際、ネット上でも「柔軟剤で頭が痛くなる」「電車で吐き気がする」「隣の柔軟剤で体調が悪化する」などの声は珍しくない。
「まさか柔軟剤で…」――最初はそう思っていた。だが実際に、その“まさか”で救われる人がいるのも事実だ。
