「ガソリン補助金はバラマキだ」「財政的に持続不可能だ」そんな批判が繰り返されてきた日本のガソリン補助金政策。しかし今、海外では逆に「Japan Model」「Japan-style Fuel Subsidy」として、日本のやり方を参考にしようという議論が広がり始めている。
皮肉なことに、その頃日本では、補助金の縮小や出口戦略の議論が本格化している。
約51年続いた「暫定税率」がついに廃止へ
発端はガソリン暫定税率の廃止だった。1974年に道路整備財源として導入され、「暫定」とされながら約51年間続いてきた税率。長年「いつまで暫定なんだ」と言われ続けてきた制度が、国民民主党などの提案をきっかけに見直され、ついに廃止へと動いた。
ドライバーや物流業界からは歓迎の声が上がった。だが、その恩恵を十分に感じる前に、事態は急変する。
イラン情勢で始まった「事実上のホルムズ封鎖」
アメリカによる対イラン軍事作戦が始まると、世界のエネルギー市場は一気に緊張状態へ入った。イランはホルムズ海峡周辺で機雷敷設を示唆。厳密には「完全封鎖」ではない。しかし保険会社が危険海域として扱い始めたことで、タンカー向けの戦争保険が機能しなくなったのである。
結果として「通れない」のではなく「通って事故が起きても補償されない」状態となり、多くの船会社が航行を回避。事実上の封鎖状態となった。世界の原油輸送の約2割が通過するホルムズ海峡。日本は原油輸入の9割以上を中東へ依存しているため、影響は直撃した。
世界は「令和の石油ショック」へ
その後、航行量は徐々に回復しつつあるものの、依然としてエネルギー市場は不安定な状態が続いている。原油価格は上昇。ナフサ不足、燃料価格高騰、物流コスト上昇。各国では物価上昇圧力が強まり、「令和の石油ショック」とも呼ばれる状況になりつつある。
日本だけが比較的「マシ」だった理由
そんな中、日本国内のガソリン価格は比較的抑えられた。理由は明確だ。暫定税率廃止・ガソリン補助金・国家備蓄放出・電気ガス補助、これらを組み合わせたからである。高市首相は「日本のガソリン価格はG7で最も安い水準」と説明している。
なぜガソリン補助金は効くのか
ガソリン補助金は単なるドライバー支援ではない。ガソリンには特殊な性質がある。まず基本的に大量買いだめができない。さらに通勤・配送・建設・農業・工場・物流など、経済活動全体に直結している。
つまりガソリン価格は、ほぼすべての物価へ波及する。食品価格も、ネット通販も、宅配も、建材も、最終的には輸送コストが上乗せされる。そのため「ガソリン価格を抑える」ことは「インフレ全体を抑える」効果を持つ。
海外で始まる「Japan Model」
これまで欧米では「市場価格へ政府が介入するべきではない」という考え方が主流だった。しかしエネルギー価格の急騰が国民生活や物流、産業そのものを直撃する中で、「まず燃料価格を抑えるべきではないか」という議論が広がり始めている。
特に中東依存国・輸入資源国・新興国ほど、エネルギー価格高騰が国家全体へ与える影響は大きい。一部海外メディアや政策議論では「日本のような価格安定策」を評価する声も出始めている。かつて「バラマキ」と批判された政策が、今では”インフレ対策モデル”として見直され始めているのである。
しかし日本では「補助金終了論」が強まる
一方で日本国内では、補助金継続への疑問も強まっている。現在の補助金規模は月4000億円規模とも言われる。与党だけでなく野党からも「持続可能なのか」「出口戦略が必要ではないか」という声が出始めている。
日本はまた「ガラパゴス」になるのか
もちろん補助金が万能という話ではない。財政負担もある。市場原理を歪める側面もある。だが面白いのは、日本がやっていた政策を海外が評価し始めたタイミングで、日本側が「やめよう」と言い始めていることである。
世界では既に物価が2倍・3倍になっている地域も少なくない。給与上昇で吸収できるのはアメリカなど一部の体力がある国だけだ。その中で日本型の燃料価格安定政策が見直され始めているのは興味深い。
海外が真似を始めた頃に、日本だけが手放す。もしそうなるのだとしたら、それはある意味で非常に日本らしい”ガラパゴス化”と言えるのかもしれない。
今後、政府や与野党がどのような「出口戦略」を示すのか。そして世界が日本型インフレ対策をどう評価していくのか。その動きから、しばらく目が離せそうにない。
