Amazon創業者、ジェフ・ベゾス氏のロケット開発事業で、大きな事故が起きた。
米宇宙企業Blue Originの大型ロケット「New Glenn」が、フロリダ州の発射台で試験中に爆発。夜空に巨大な火の玉が上がり、発射台周辺にも大きな損傷が出たとみられている。
しかも、このロケットで打ち上げる予定だったのは、Amazonの衛星インターネット計画「Amazon Leo」の衛星群だった。
Amazon、宇宙開発、衛星インターネット、AI、軍事利用。その全部がつながり始めている、今の宇宙ビジネス競争を象徴する事故でもある。
Amazon創業者のロケットが火の玉に
今回爆発したNew Glannは、Blue Originが開発する大型ロケットだ。Blue Originは、ジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙企業である。一方で、打ち上げ予定だったAmazon Leoは、Amazonが進める衛星インターネット計画だ。
Amazon Leoは、以前はProject Kuiperと呼ばれていた。低軌道に多数の衛星を打ち上げ、地球上のさまざまな場所へ高速インターネットを届ける構想である。分かりやすく言えば、SpaceXのStarlinkに対抗するAmazon版の衛星通信ネットワークだ。
今回の爆発時、Amazon Leoの衛星はまだロケットに搭載されていなかった。そのため、衛星そのものの損失は避けられた。しかし、発射台まで損傷したとみられている。
宇宙開発で本当に怖いのは、ロケット一機が燃えることだけではない。打ち上げる場所そのものが止まることだ。今回の爆発で燃えたのは、ロケットだけではない。SpaceXに追いつこうとしていたベゾス陣営の時間も、一緒に燃えた。
宇宙はもう国家だけのものではない
かつて宇宙開発は、国家の仕事だった。アメリカのNASA、旧ソ連、日本のJAXA、欧州のESA、そして中国。宇宙は、国家の威信と安全保障をかけた巨大プロジェクトだった。
しかし今は違う。SpaceX、Blue Origin、Rocket Lab、Amazon Leo、ispace、インターステラテクノロジズ。民間企業が、次々と宇宙ビジネスに参入している。
- ロケットを飛ばす
- 人工衛星を運ぶ
- 宇宙ステーションを作る
- 衛星インターネットを提供する
- 月や小惑星の資源開発まで見据える
宇宙は、夢や探査の場所であると同時に、通信、軍事、測位、物流、資源、データをめぐる巨大ビジネスの場になっている。
NASAはスペースシャトルをなぜやめたのか
スペースシャトルは、1981年から2011年まで運用されたアメリカの有人宇宙輸送システムだった。しかし、打ち上げ費用は高く、整備には時間がかかった。そして何より、人命に関わる大事故が起きた。
1986年、「チャレンジャー号」は打ち上げから73秒後に空中分解し、7人の宇宙飛行士が亡くなった。2003年には「コロンビア号」が帰還中に空中分解し、こちらも7人が命を落とした。
コスト、安全性、老朽化。こうした問題を抱えた結果、NASAはスペースシャトル計画を終了。その後、民間企業から宇宙輸送サービスを買う方向へ舵を切っていく。そこで急成長したのが、イーロン・マスク氏のSpaceXだった。
SpaceXが宇宙輸送を変えた
SpaceXは、Falcon 9とCrew Dragonによって宇宙輸送の常識を変えた。特に大きかったのは、ロケットの第1段を回収して再利用する仕組みである。これにより、打ち上げコストを下げ、打ち上げ回数を増やすことが可能になった。
NASAが自前のスペースシャトルで飛ばす時代から、民間企業の宇宙船に乗って宇宙へ行く時代に変わったのである。SpaceXはその先頭を走っている。だからこそ、ベゾス氏のBlue Originは、SpaceXに対抗する存在として見られてきた。しかし、その差はまだ大きい。
中国は独自の宇宙ステーション「天宮」を持つ
一方で、中国は別の道を進んでいる。中国は、アメリカ主導のISS宇宙ステーション事業には本格的に参加していない。その代わり、自国独自の宇宙ステーション「天宮」を建設し、運用している。
中国は月探査、火星探査、月面基地構想、そして2030年前後の有人月面着陸計画まで見据えている。国家主導で宇宙開発を進める巨大プレイヤーになっている。
今の宇宙開発は、アメリカの民間企業が引っ張る流れと、中国が国家戦略として進める流れが同時に走っている。
AmazonはなぜAWSと宇宙をつなごうとするのか
Amazonといえば、多くの人にとってはネット通販の会社だ。しかし、Amazonの本当の強みは通販だけではない。クラウドサービスのAWS、物流網、AI、データセンター。Amazonは、ネット上の商取引とデータを支える巨大なインフラ企業でもある。
そう考えると、宇宙との相性はかなり良い。世界中でインターネットを提供できれば、AWSやクラウドサービスとの連携も広がる。災害時、海上、山間部、航空機、軍事、防災、物流。宇宙から通信を提供できる意味は大きい。
AWSと衛星とAIがつながると何が起きるのか
Amazonが宇宙を目指す理由を考えると、単なる衛星インターネットだけでは終わらない。そこにAWSがある。世界中の企業や政府機関が使う、巨大なクラウド基盤がある。そこに衛星通信とAIがつながる。
- 衛星で地上の変化を観測する
- そのデータをAWS上で処理する
- AIが異常を見つける
- 物流や災害対応、農業、インフラ管理に活用する
これはかなり便利な未来だ。しかし、同じ技術は別の使い方もできる。
- 衛星通信を利用したインターネット通信
- 位置情報(GPS)による衛星監視、標的の把握
- 衛星×ミサイル×ドローンの連携
- AWSを活用したAI×衛星×軍事作戦
これらは、すでに近代戦争では重要なインフラとしても使われ始めている。
日本の宇宙開発も簡単ではない
日本でも、宇宙開発は進んでいる。JAXAの新型基幹ロケットH3は、初号機で第2段エンジンが点火せず、衛星を予定軌道に投入できなかった。国の機関であっても、ロケット開発は一回で完璧に成功するものではない。
民間では、インターステラテクノロジズが北海道大樹町を拠点に観測ロケット「MOMO」と小型衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」の開発を進めている。ispaceは月面着陸船を使った月面ビジネスを目指しているが、HAKUTO-Rミッションでは着陸を目前に通信が途絶した。
日本の宇宙開発も、成功と失敗を繰り返しながら前に進んでいる。
爆発しても、宇宙開発は止まらない
今回のNew Glenn爆発は、ベゾス氏の宇宙開発事業にとって大きな痛手である。Amazon Leoの衛星展開にも影響が出る可能性がある。SpaceXとの差も、短期的にはさらに開くかもしれない。
しかし、宇宙開発の歴史は失敗の連続でもある。チャレンジャー号も、H3も、ispaceも、SpaceXも何度も爆発した。それでも、各国も企業も宇宙を諦めない。
衛星インターネット、測位、地球観測、月面開発、資源開発、安全保障。これらを誰が握るのか。その競争が、すでに始まっている。
火の玉になったロケットの先にあるのは、失敗の終わりではない。宇宙、AI、クラウド、軍事、通信をめぐる、さらに大きな競争の始まりである。
